大判例

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最高裁判所第一小法廷 平成9年(オ)40号 判決

東京都北区王子四丁目九番三号

上告人

王子繊工株式会社

右代表者代表取締役

吉田幸一郎

右訴訟代理人弁護士

西村寿男

長尾敏成

右輔佐人弁理士

吉田精孝

広島県竹原市忠海町一〇二七番地

被上告人

アトム株式会社

右代表者代表取締役

平健一郎

右訴訟代理人弁護士

中尾正士

山本英雄

今井光

東京都板橋区高島平四丁目一六番三号

被上告人

高和産業株式会社

右代表者代表取締役

高橋禄郎

大阪府箕面市船場東一丁目八番一号

被上告人

おたふく手袋株式会社

右代表者代表取締役

井戸端岩男

東京都港区芝公園四丁目一番四号

被上告人

株式会社セブンーイレブン・ジャパン

右代表者代表取締役

栗田裕夫

右両名訴訟代理人弁護士

岡田春夫

小池眞一

広島県豊田郡本郷町大字上北方四〇八四番の六

被上告人

シンエイ産業株式会社

右代表者代表取締役

秋田松雄

東京都北区豊島七丁目一三番二二号

被上告人

株式会社アイダ

右代表者代表取締役

会田博

右両名訴訟代理人弁護士

河原和郎

右輔佐人弁理士

三原靖雄

右当事者間の東京高等裁判所平成七年(ネ)第二一六〇号特許権侵害差止等請求事件について、同裁判所が平成八年九月二五日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人西村寿男、同長尾敏成、上告輔佐人吉田精孝の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断及び措置は、原判決挙示の証拠関係及び記録に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する事実の認定を非難し、独自の見解に立って原判決を論難するか、又は原審の裁量に属する審理上の措置の不当をいうものであって、採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 遠藤光男 裁判官 小野幹雄 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄 裁判官 大出峻郎)

(平成九年(オ)第四〇号 上告人 王子繊工株式会社)

上告代理人西村寿男、同長尾敏成、上告輔佐人吉田精孝の上告理由

平成八年一二月三日付け上告理由書記載の上告理由

原審判決は左記に述べるとおり、経験則ないし採証法則の適用に誤りがあり、また判決に影響を及ぼすこと明らかなる法令違背があるので取り消されるべきである。

一、本件裁判の争点

本件裁判の争点は、本件発明における弾性糸の編み込みの位置がどこであるかというものである。

上告人は弾性糸の編み込みの位置について「股部FをとおるFからすそ部Zまでの所望の箇所に適宜、弾性糸を編み込む」と解釈すべきであると主張している。

これに対し、原審判決は、弾性糸の編み込みの位置について「股部Fを起点として、すそ部Zにかけての部分に弾性糸を編み込む」と解釈すべきであると判示している。

原審判決は、被上告人の製造販売している手袋は、股部Fを起点とする位置に弾性糸が編み込まれていないので本件特許権に抵触しないと判示している。

しかし、右原審判決の解釈は以下に述べるとおり明らかに間違っている。

二、特許請求の範囲の記載について

(1)本件特許発明の技術的範囲については、第一義的には特許公報の「特許請求の範囲」の記載により認定されなければならない。

右特許請求の範囲においては、弾性糸の編み込みの位置について「股部Fから、すそ部Zにかけての部分に・・・弾性糸を編み込む」と明確に記載されている。

右文章の記載よりすれば、右弾性糸の編み込み位置は「股部Fからすそ部Zまでの所望の箇所に弾性糸を編み込む」と解釈すべきことは経験則上明らかである。

右文章の記載は原告は判決のごとく「股部Fを起点として、すそ部Zにかけての部分に弾性糸を編み込む」と解釈することは社会通念上、全く奇異な解釈であり、経験則上に反することは明らかである。

(2)原判決は、特許請求の範囲において「股部Fに集中する作用力を受けとめるため」という目的の記載があるので、右目的達成のためには、弾性糸の編み込みの位置を「股部Fを起点として」弾性糸を編み込むことが必要不可欠であるので特許請求の範囲の記載を「股部Fを起点として」と解釈すべきであると判示している。

右原審判決は、明らかに公知の事実に反するものであり、経験則上明らかなる解釈の誤りである。

原判決は「股部Fに集中する作用力」の意味を全く誤って解釈している。

本件発明は、特許請求の範囲に記載のとおり、編み手袋に関するものである。

すなわち、本件手袋は編物組織によるものである。

原判決は、公知の技術又は公知の事実である編物の組成につき誤った解釈をしている。

編物と織物は全く異なる組成のものである。

編物は一本の糸をループ状にからめて面をつくってゆく組成であるのに対して、織物は多数の縦糸と横の糸を織り込んで面を作ってゆく組成である。

それ故、手袋の着用中の手指の動きにより股部Fに集中する作用力は、編物の組成においては、Fを起点とする斜めの線上すなわち別紙図面の〈X〉〈F〉と〈F〉〈G〉線上にもっとも強く働くものであり、織物の組成においてはFを起点とする横の線上に最も強く働くものである。

なお右作用力というのは引張力のことである。

本件発明は、編み手袋に関するものであるので、F点に集中する作用力すなわちFを起点とする引張力は斜めの上下線上すなわち別紙図面の〈X〉〈F〉と〈F〉〈G〉線上に最も強く働くものである。

右のとおりFを起点とする引張力は斜の線上に最も強く働くことは公知の事実である。本件裁判において提起されている乙第二号証の実用新案公報(実公昭三八-二五〇六二)の別紙第二図には編物の組成すなわち構造が記載されている。

また公知の文献である社団法人日本繊維機械学会発行(昭和四九年四月一五日第四版印刷発行)の「基礎繊維工学〔Ⅲ〕-布の構造と性質-」の一九四頁に編物の構造が記載されている。

右構造図の記載よりして、横に引っ張った場合には糸は横に延びるが、上下の斜方向に延びないことが明らかである。

すなわち、右編目の組成は、横に力を加えた時は糸は横には延びるが斜方向には延びないこと右公知の編物組成の構造図より明らかであり、公知の事実といえるものである。

また、公知の文献である社団法人日本繊維機械学会発行(昭和三九年九月一〇日発行)伴正尊著の「メリヤス編地の理論と実際」の三〇頁乃至三三頁には、メリヤス編地を横方向に引っ張った場合と縦方向に引っ張った場合の編目の写真が掲載されている。

右写真によっても、メリヤス編みに横の力を加えた場合には、糸は横方向に延びるが上下斜め方向には延びないことが明らかである。

本件編み手袋においてF点に集中する作用力すなわち引張力が斜めの線上に最も強く働くことについては、上告人は原審において平成八年四月二二日付準備書面において詳しく主張したものであり、また手袋の検証手続により立証をしたものである。

しかるに、原審判決は、本件発明の手袋の編物の組成を織物の組成であると間違って解釈し、F点に集中する作用力すなわち引張力はF点をとおる横の線上に最も強く働くものと解釈して、本件発明における弾性糸を編み込む位置を「股部Fを起点として」と誤った解釈をしたものである。

(3)右のとおり「股部Fに集中する作用力を受けとめるため」というのは、具体的にいえば、F点を起点とする斜めの線上に最も強く働く引張力を受けとめるためということである。

右F点に集中する斜線上の引張力すなわち別紙図面の〈X〉〈F〉と〈F〉〈G〉に働く引張力を受けとめるためには、F点を起点とする横の線上に弾性糸を挿入することが必須不可欠ではなく、F列とZ列との間の所望の箇所に編み込めば、十分に作用効果が発生するものである。

また、上告人の知見によれば、Fを起点とする横の線上に弾性糸を編み込んでもF点に集中する作用力を受けとめる効果は実質的に生じないものである。

上告人は右事実を立証するため、原審において鑑定を申請したが、原審は鑑定を採用しなかった。

右原審の鑑定不採用は審理不尽である。

(4)また、原審判決は、特許請求の範囲を「股部Fを起点として、すそ部乙にかけての部分に弾性糸を編み込む」と解釈する理由として、特許公報の「実施例」の記載を根拠としている。

しかしながら、実施例は、本件発明の最善の具体例を記載しているものであり、右実施例において弾性糸を編み込む記載例として股部Fを起点とする例示の記載があるからといって、特許請求の範囲を「股部Fを起点とする」と解釈するのは間違っている。

すなわち、原判決は本件特許請求の範囲の解釈において、実施例に限定して解釈しているものであり、明らかに間違っている。

特許請求の範囲の解釈は、「技術思想」に基づき解釈すべきである。

本件発明における「技術思想」は前記のとおりである。

三、発明の詳細な説明の記載について

(1)原審判決は、本件特許公報の「発明の詳細な説明」の記載のうち、「発明の作用」の項に記載されている「手指の開閉による糸の伸び力は股部Fの最上位の緯に対して最も強く働く、下に順に糸の引張力は弱まる」との記載をもって、本件発明における弾性糸を編み込む位置は「股部Fに起点として」と解釈すべきであると判示している。

しかしながら、右判示は明らかな間違いである。

前記のとおり、本件発明は編み手袋に関するものである。

編物においては、一本の糸をループ状に編って面をつくるものであり、編物には緯糸なるものは存在しない。

一本の糸をループ状に編ってゆくと、編み目ができるだけであり、緯糸なるものが存在するわけではない。

編み目は引張力により、引張力方向に変形して伸び縮みするものである。

手の構造上、F点を通過する位置が最も幅が広いものである。

手袋を開いた場合は、F点をとおる横幅に引張力が働くことは間違いない。

しかしながら、前記公知の文献より明らかなとおり編物の組成及び構造よりして、編物を横方向に引っ張った場合に、糸は横方向に長く延びるが斜めの上下方向には延びないものである。

すなわち、横方向に引っ張った場合糸は横方向には長く延びるため、横方向には引張力に対抗する力は働かないものであり、糸が延びない斜めの上下方向に引張力に対抗する力が働くものである。

横に引っ張った場合に右斜方向に引張力は対抗する力が働くため、斜め上下方向の糸が疲労し、特にF点に右疲労が集中して、メリヤス編の糸の伸びや切断による破損が生じるものである。

よってF点に働く引張力は、横に手袋を開いた場合に生じる別紙図面の〈X〉〈F〉と〈F〉〈G〉に生じる引張力であるから、F点をとおる別紙図面〈F〉〈あ〉線上に弾性糸を挿入しても何ら引張力を受けとめることはないものである。

前記公知の文献で説明したとおり、編物に対し横に引っ張る力を加えても、横方向の糸は無限大に延びるため何ら引張力に対抗する力は働かないものである。

よって、F点をとおる横方向の力に対し、F点をとおる横方向に弾性糸を挿入しても何ら引張力に対抗する作用は生じないものである。

(2)以上のとおり、手指の開閉による糸の伸び力は股部Fの最上位の緯に対して最も強く働くという記載は、手袋の横幅部分のみに限ってみれば、手の構造上、最も幅広の部分である股部Fの最上位の緯に最も強く働くというものであり、当然の公知の事実を記載したにすぎない。

右記載は、特許請求の範囲に記載する「股部Fに集中する作用力」とは何ら関係のないものである。

また、原判決が引用する「発明の詳細な説明項」における「数列の弾性糸は、第一列より緯F1のものが引張力に最も強く対抗して伸び」との記載は、前記のとおり手の構造上Fを起点とする第一列が最も手の横幅が広いので最も強く伸びると当然の事実を記載したものである。

四、先願考案について

(1)原審判決は、本件争点である弾性糸の編み込みの位置を「股部Fを起点として」と解釈すべきであるとする理由として、上告人が出願した先願考案との関係を根拠としている。

しかしながら、原審判決は、右先願考案の内容の解釈につき明らかなる間違いをしている。

原審判決は、上告人は本件特許出願に先だち、本件特許出願と共通の技術思想に基づく考案を実用新案登録出願しているが、右先願考案は、その出願前公知の考案に基づき、きわめて容易に考案できるとして拒絶査定され、出願人もこれに服して拒絶査定が確定しているものであると認定したうえで、本件発明が、それにもかかわらず特許が認められたのは、先願考案と異なり「股部Fから」との要件を規定することにより、弾性糸を編み込む起点を股部Fと限定したうえ、この構成による作用効果を強調したからであると判示している。

(2)しかしながら、本件発明と上告人が出願した右先願考案とは技術思想及び作用効果が全く異なるものである。

乙第四号証の二の上告人の右先願考案(明細書の)記載によれば次のとおりである。

(従来の技術)の項には「使用すると手のひらの部分が伸びてたるみ、着用感が悪くなるとともに作業の邪魔になる問題を生ずる」と記載されている。

また(技術的課題)の項には「本考案は前記の点を解決し、長時間使用しても手の特に掌に良くフィットする作業用手袋の提供を目的とするものである」と記載されている。

また(考案の作用及び効果)の項には「上記の構成を有するため本考案の手袋では、着用時手首から手のひらに及ぶ範囲に常時適度の収縮力が加わる。この収縮力は手の形状によって手袋の5指にはまっている先方(上半分)を手首方向へ引張する作用となる」「従って本考案によれば、本体すそ部Zから手のひら部3にかけての範囲の一部又は全部にホールド部4を幅方向へ収縮するように設けているので、本体1は常に下方に置いて両側から圧迫され、これが着用時手のひらの側面の傾斜形状と相乗して本体全体を縦横両方向へ引張するので、手から外れるおそれがなく、しかも使用により伸びてたるむ傾向もこの緊張力により吸収されるため、着用中の不快感もなく、作業を円滑に進められ、磨損するまで快適に使うことができる効果が発揮される」と記載されている。

(3)また、上告人の右先願考案の公知考案である乙第二号証の実用新案公報の(考案の詳細な説明)の項には「弾性糸条または伸縮性条が適当な伸縮度で全体に編み込みされてているため着用時は、肌に程よく密着して指先の屈折により編地が伸びて肌から離れて浮き上がることがないため・・・防災上極めて大きい効果がある他・・・全体に適当な緊締感を有するので把握力が増大して作業し易いから・・・指先から脱げだすことを完全に防止するので」と記載されている。

また同じく公知考案である乙第三号証の実用新案公報の(考案の詳細な説明)の項には「弾性ゴム条が適当な伸張度で編み込まれているので、着用時は掌甲上部2が程良く密着して指先を屈折により肌から離れてふ膨れ上がることがなく・・・防災上極めて多く役立つ他・・・適度な緊締感を有するので把握力が増大して作業し易い・・・指先から脱け出すことを完全に防止するので・・・」と記載されている。

(4)以上のとおり、上告人が出願した右先願考案はいずれも弾性糸を編み込むことにより手首から手のひらの範囲にかけて収縮力が加わり、手袋着用中、肌に密着し、手への適合感、あるいは密着性を向上させるという作用、効果を発生させるというものである。

(5)しかるに本件発明においては、右の先願考案とは全く異なる作用、効果を発生させるものである。

本件発明と右先願考案の相違点については、本件発明の拒絶理由通知にあたり、上告人が特許庁審査官に提出した乙第一号証の六の意見書の記載により明らかである。

乙第一号証の六の意見書七頁の(相違点について)の項には「本願発明は上記の股部Fに作用力の集中が見られること及び股部Fからすそ部Zへかけての部分に弾性糸を編み込み、それによってこの部分の弾力性を高めることが、極めて有効であるという、独自の知見に基づいてなされたものであるが、このような事実は引用倒1、2では全く認識されていない」と記載されているものである。

また本件特許公報の(技術的課題)の項には「本発明の課題は・・・手への適合感、或いは密着性を向上し、かつまた糸の伸びや切断による破損が起きるのを可能な限り防止し、耐用期間を延長できるようにすることにある」と記載されている。

以上のとおり本件発明の作用、効果は手袋股部Fに集中する引張力を弾性糸を編み込むことによって緩和し、糸の伸びや切断による破損を可能な限り阻止して耐用期間を延長することにある。

(6)よって本件発明の作用、効果と右先願考案の作用、効果は全く別なものであり、同一内容のものとして判示する原審判決は間違っている。

右先願考案の作用、効果と本件発明の作用、効果とを同一のものとして、本件特許発明の技術的範囲を「股部Fを起点として・・・」の如く限定的に認定とする原審判決は誤りである。

(7)原審の判決は、上告人が右先願考案の拒絶査定につき不服を述べずこれに服していることを本件特許発明の技術的範囲の認定にあたっての一つの根拠としている。

しかしながら、上告人は本件発明の拒絶理由につき乙第一号証の六の意見書をもって意見を申し立てているものである。

上告人は実用新案権に比較して、特許権のほうが効力の点についても、期間の点についても強いものであるので、本件発明の拒絶理由につき意見が認められれば本件発明に特許が成立し、本件特許及び実用新案出願の目的は達成されるので、あえて上告人は先願考案の拒絶査定につき不服を述べなかったものである。

(8)また原審判決は、本件特許発明の技術的範囲の認定につき、先願考案の出願書類の記載をもって解釈の根拠とすることは間違っている。

特許発明の技術的範囲については、特許請求の範囲の記載のみをもって認定すべきものであり、本件発明とは別個の先願考案の記載を斟酌して特許発明の技術的範囲の認定の根拠とすることはできないものである。

以上

図面

〈省略〉

平成八年一二月五日付け上告理由書(二)記載の上告理由

一、 平成八年一二月三日付上告理由書(以下上告理由書という)の一ページ六行目の「股部FをとおるFからすそ部Zまで」とあるのを「股部Fをとおる緯と平行にFからすそ部Zまで」と変更する。

二、 上告理由書五頁一五行目の「F列とZ列との間の所望の箇所に編み込めば」とあるのを「F列とZ列との間の所望の箇所に、Fに集中する作用力に対抗する弾性糸を編み込めば」と変更する。

三、 上告理由書七頁八行目の「編物には緯糸なるものは存在しない」とあるのを、「編物には一直線の緯糸なるものは存在しない」と変更する。

四、 上告理由書七頁一〇行目の「緯糸なるものが存在するわけではない」とあるのを「編み目の連結が緯糸となるものである」と変更する。

五、 上告理由書記載の上告人の主張をより明らかにするとともに詳しく説明するために、別紙吉田安衛作成の陳述書をもって上告理由を補充する。 以上

陳述書

陳述者

吉田安衛

私の本件発明は着用中の編み手袋が、親指の開閉による引張力によって、手首方向へずり動き、手袋の耐用期間を延長する等の機能を持った手袋の発明です。

尚本件公報の記載については上記構造の理解をもって文理の解釈をされるべきと思います。

発明の構造は本件請求の範囲に記載されている通りです。

発明の詳細な説明の最初に本発明は編物組織を有する編手袋に関するものであると記載されています。

メリヤス編の構造について簡単に説明致します。

編機の場合1本の糸を緯に設施し編機の針で表目と裏目を経の作用によって連続して編成されます。

表目は経のハの字の編目の連結となり裏目は波形の編目の連続となります。

又1本の糸で編目が連結して編成されるので線上の力は均等になり、引張力方向によって形、構造を変える機能を有するものです

編目の変形図 別紙

1. メリヤス構造図 実公昭38-25062

2. 上記変化構造図 〃

3. メリヤス表目、裏目の発生図 編み物全書 城川美枝子書

4. 編物の構造 社団法人日本繊維機械学会発行 昭和49年4月15日 基礎繊維工学Ⅲ 194頁

5. メリヤス編地を経に引張ったときの編目の写真 社団法人日本繊維機械学会発行 メリヤス編地の理論と実際の 30頁

本件発明に於て親指と人差指との股部Fに集中する作用力を受け止めるため、Fの引張力は斜めの線上であることは、編物組織からも明らかです。

又編物組織の構造を物理的に見ると図(参考提出)に於ても、斜めの糸、経糸、緯糸の伸び率は、斜めの糸1に対し経に引張力が加わったときの経の伸び率は1:√2であり、緯に引張力が加わったときの伸び率は、編目の変化により、1:2と2倍になります。(糸の構造を無視)いずれに於ても、Fに集中する作用力とはFを起点に斜めの引張力線の作用であることは明らかです。尚メリヤス編組織の構造図の鑑定をお願い致します。

先願

実公昭38-25062の手袋本体の5本指部を除いて、全体に弾性糸を編込んだ手袋の場合には、意見書の記載通り、本件Fに集中する作用力を受け止めるための効力は、弾性糸を編込まない場合と何ら変わるところはないからであることが記載され、作用効果に於ても全く違ったものである。

先願考案昭63年12月15日公開については、先願考案同様手袋本体の圧迫力の作用を目的としているものに対し、本件は手と手袋を密着させるために、弾性糸を編込み、Fの作用を得る目的と思想が異なることは明らかです。

結び

股部Fに集中する作用力を受け止めるために、股部Fからすそ部Zにかけての部分に、Fの作用力に対抗する弾性糸を編込むことにより、Fに集中する引張力をFからZの間の緯糸(緯糸の編目)が均等に分散し受け止める構造です。その結果として、本件発明の作用効果が得られるものです。

別紙 Fの作用図6 平成8年12月5日

住所 東京都北区5条伸原2-13-6

氏名 吉田安衛

最高裁判所御中

〈省略〉

図1

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図2

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図3

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図4

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図5

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図5

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図面6

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